【生体膜干渉】 タッチ&フォールド?

【生体膜干渉】 関連の研究成果が、学術雑誌Nucleic Acid Research (IF=7.6)に
掲載決定しました!
(生体膜によるタンパク質生産の制御指針の一つです)

Keishi Suga, Tomoyuki Tanabe, Hibiki Tomita, Toshinori Shimanouchi, Hiroshi Umakoshi, Conformational Change of Single-Stranded RNAs Induced by Liposome Binding, Nucleic Acid Research, in press (2011)

細胞の内部では,DNAの情報がmRNAに転写され,その情報に基づいてタンパク質が合成される事が知られています.2006年のノーベル賞では,特定の配列のmRNAと相補体を形成して,その配列に相当するタンパク質を阻害する事で,その遺伝子の機能を探る"RNA干渉"という技術が対象となりました.生体膜は,各種の細胞に普遍的に存在することが知られており,遺伝子の発現(タンパク質の生産)に何らかの役割があるのではないか?とも考えられます.我々はその様な現象を仮に"生体膜干渉"と呼んでいます.

今回の論文では,RNA干渉技術やDNA送達技術において活用される事の多い,人工的な正電荷の脂質(DOTAP)からなるリポソームが遺伝子発現に及ぼす効果に着目しています.特に,RNA(tRNAとmRNA)とDOTAPリポソームを対象として,FTIR(フーリエ変換赤外分光法),CD分析法,蛍光プローブ法(TNS)を用いて,RNAがDOTAPリポソーム表層でどのように相互作用し,さらには,どのように新たな構造を形成していくか,詳細に解析しました.その結果,リポソーム表層におけるRNAの構造を制御する事により,遺伝情報の産物であるタンパク質(GFP)の発現を制御する事を明らかにしました.

私達がこれまで研究してきた"生体膜干渉"に関する成果では,「現象論的」な理解しか進んでいませんでした(GFP発現に対して添加したリポソームがどのように影響するか?).本研究で初めて,リポソームとの相互作用に貢献する核酸残基が明らかにされました.複雑な系なので,一足飛びには理解できませんが,「分子的」理解へと進んだ第一歩の研究成果です.分子レベルでの理解が進めば,表面を最適にデザインしたリポソームを用いて,特定の遺伝子を認識して,構造変化させ,その遺伝子機能を制御できるような,夢の技術に展開できると期待しています.


 なお,本論文は,当研究グループの博士学生である菅 恵嗣 君(JSPS Fellow/GCOE Fellow)が中心に進めた研究成果です.